1-3 MVVの策定

2021年5月7日

MVVの策定
MVVの策定

MVVは企業の急成長には必要不可欠

■Mission(ミッション)=「社会にとっての企業の存在意義」
ミッションとは、自社が社会に対して提供すべき価値の原動力となるものです。プロダクトやサービスを提供することによって、社会に対してどんな使命を果たしたいのかという、自社が普遍的に追求すべき社会的役割のことです。会社そのものの存在意義となるので、どこまで社会的に意義のあるものにできるかが重要となってきます。

■Vision(ビジョン)=「組織として実現を目指したい未来の姿」
ビジョンとは、自社が実現したい未来のことです。ミッションを果たした先に待っている未来であり、その企業のお客さんを始めとして世の中の人々が応援したくなるような共感性の高いものであることが重要です。誰しもが想像しやすいような、理想的な未来のワンシーンを想起させる言葉に落とし込みましょう。

■Value(バリュー)=「組織としてあるべき姿・体現すべき価値観」
バリューとは、ミッションの遂行とビジョンの実現をおこなっていく上で、具体的にどのような価値基準に基づいて行動や判断をするのかという指針です。メンバーの一人ひとりが日々発揮するべき価値とも言えます。また、ミッションやビジョンとは違い、複数存在する場合がほとんどです。

なぜMVVの策定が重要なのか

■組織の羅針盤になる
MVVは決断に迷った際に立ち戻るべき、意思決定の基準となります。さらに、企業として業績が伸びているうちはMVVがなくとも流れに乗って進むことができますが、業績が落ち始めると目指すべき方向性もなく、組織として空中分解してしまう可能性が高いです。MVVとは会社の存続に影響するものであり、組織カルチャーそのものであると言えます

■メンバー全員の目指すべき未来が一つになる
経営者の中にのみ思想やビジョンがあっても、共有されなければ社員は経営者の顔色を伺って仕事をしてしまいます。組織としてのMVVが明文化されていれば、それに従って社員が自主的に動けるようになります。また働く人の意識レベルを上げ、組織に対するエンゲージメントを高めることにも繋がります。

■採用ブランディングに活きる
MVVは、採用における不動のメッセージとなりえます。採用活動は、ともにミッションやビジョンを実現させる「同志」を集めること。MVVを採用メッセージにも反映することで、自分たちに近しい価値観を持ったメンバーの採用を可能にします。

1.会社のDNA=ミッション、ビジョン、バリューの策定

「なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出ないか?」
ユニコーンとは、「産業を生み出し、明日の世界を想像する担い手」となる企業。
スタートアップが成功してユニコーンになるためには、経営陣が全ての鍵を握っている。

PMF(市場適合)を目指す起業家に必要な資質は何かを一言で表現すると、「戦略的泥臭さ」だ。
つまり、市場を選択し、PMFできるビジネスモデルを選択し、ソリューションを絞り込んで展開するという高い戦略性が求められる。
そして、戦略が決まれば、何がなんでもPMFを目指していく「泥臭さ」が求められる。
顧客の元に出向いて、何が本当に欲しいものかを徹底的にヒアリングし、自らセールスを行うことだ。またセールスだけではなく、顧客に価値を提供するために、自ら製品やサービスを届けることもある。

しかし、PMFを達成し、会社が成長するにつれ、組織のメンバーも増えてくる。
そして、組織のルール不足やマネジメント不足など、様々なリスクが発生してくる。
次に、会社に勢いがついて成長期に入ると、息つく間もなく、やるべきことが次から次へと出てくる。

したがってPMF達成のタイミングで、起業家は自らを自己分析して事業家(CXO)に変身・進化するよう努力する必要がある。なぜなら、起業家から事業家(CXO)に変身できないことによって、起業家自身が事業にとって最大のボトルネックになってしまうからだ。

1-1経営者として下記の問いに答えることができるか?

1.PMF後にミッション・ビジョン・バリューをどう磨いていくのか?
2.PMF後の事業をスケールさせる戦略やロードマップは、どのように立てるのか?
3.成長に寄与する人材を、どう採用し、定着させるか?
4.全体の戦略から、各個別の戦術に落とし込み、戦術を実行するための行動マネジメントをどうするか?
5.顧客獲得のプロセスをどう最適化するのか?
6.顧客獲得後、継続させるためのカスタマーサクセスの考え方は?
7.ユーザー・エクスペリエンス(UX=ユーザー体験)ベースの製品開発をどう実装するのか?
8.ディフェンシビリティ・アセット(D持続的競合優位性資産)の蓄積をいかに考えるか?
9.拡大するまでのファイナンスについて、そのエクイティストーリーをどう作るのか?
10それぞれの資金調達のフェーズで、どうやって有利に投資家と交渉を進めていくのか?
11人員増加に伴う、オペレーションの属人化/陳腐化、見えないボトルネック解消にどう対応するか?
12.どのような事業ポートフォリオを組めば、全体最適が図れるか?
13.業界の上流/下流もしくは横にいて、市場シェアを取っている競合企業を買収/出資/業務提携して、さらなる成長軌道を描けないか?

1-2事業家へとレベルアップするために必要な視座や能力、スキルは何か?

「0ー1発起人」から「1→10起業家」そして「10→100事業家」へとレベルアップするために必要な視座,、能力、スキルは何か。

①MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)
②戦略
③人的資源
④オペレーショナル・エクセレンス
⑤UX(ユーザー体験)
⑥マーケティング
⑦セールス
⑧カスタマーサクセス
⑨ファイナンス
の9つである。

1-3MVVは経営陣自らが「言葉に落とし込んで、書き記す」

PMF(市場適合)前からミッションやビジョンを掲げてきたという会社も、明文化していないことは多々ある。
「こんな世界観を作りたい」という思いがあり、ときに仲間と共有することはあっても、わざわざ言葉に落とし込むまではしてこなかったという人もいる。
しかし、内に秘めて言語化していなければ重要なステークホルダーに伝わらないし、そのステークホルダーを「動かす」ことはできない。

「スタートアップとは、君が世界を変えられると君自身が説得できた人たちの集まりだ」。
「伝えること」(=StoryTelling)は起業家にとって、非常に重要な活動の一つだ。
肝心なのは、経営者自らが「言葉に落とし込んで、書き記す」という作業を行うこと。
文章で表明し、強調することで、MVVはスタートアップにとって最強の武器になる。
既存企業のMVVが形骸化している実態の中で、競合優位性を構築することができる。

多くの人を突き動かしている企業のミッションやビジョンは、短い一言でも研ぎ澄まされており、人の心に響く強烈なインパクトを持つ優れたものが多い。
自分たちの生き様や哲学とプロダクトを照らし合わせながら、練りに練って磨き上げたからに他ならない。

1-4MVVの全体像

ミッション(Mission)/ビジョン(Vision)/バリュー(Value)の定義

・ミッション(Mission)
自社が事業を通じて、社会にどのように貢献するか、社会で実現したいことは何か
・ビジョン(Vision)
自らの意志を投影した未来像のこと。自分たちが心の底から達成したいと願う未来
・バリュー(Value)
取り組みについての優先すべき価値基準
前提条件として、MVVは、顧客に対する独自の価値提案が実証されていなければ成り立たない。スタートアップにとって最も重要なステークホルダーである顧客に対し、その価値が訴求できなければ、意味はない。

事例1:ソフトバンク
・ミッション:情報革命で人々を幸せに
・ビジョン:世界の人々から最も必要とされる企業グループ
・バリュー:努力って、楽しい。

事例2:ヤフー
・ミッション:UPDATEJAPAN
・ビジョン:世界で一番、便利な国へ

2「M=ミッションの5つの良い切り口

「明確かつ焦点の定まったミッションだけが、組織を一つにする」

ミッションとは、自社が事業を通じて社会にどのように貢献するか、社会で実現したいことは何か、を言語化したものだ。
会社の存在意義を明確にし、長期的な指針にすべきものになる。

良いミッションを考える切り口。
1.「当たり前大義」を並べない
2.聞いた人や口に出した人が、エネルギーを生み出すことができるか
3.自社の強みに合っているか
4.10年後も使えるか
5.顧客は誰か明確にできているか

2-1.「当たり前な大義」を並べない

良いミッションは、自分たちがターゲットにする顧客への独自の価値提案に立脚している。

銀行などのミッションを見てみると、これらの「当たり前大義」が並んでいるだけだ。
「社会に貢献します」「お客様のお役に立つよう努力します」「企業価値を高めます」「社員を幸せにします」といった文言だけが並ぶミッションは、独自のものではないという意味でNGだ。
抽象的な上に非常に長い文章で、全く頭に残らない。
残念ながら、結果として顧客への独自の価値提案はほとんど見当たらず、「大手銀行のミッションは、企業を存続させることではないか?」と勘ぐってしまう。

・グーグル「Googleの使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」
・メルカリ「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」
・無印良品「日本の基本から世界の普遍へ」
その企業ならではの「独自の価値提案」は大きなポイントになる。

この「独自の価値提案」はプロダクトに紐づいていなければ意味がない。
当たり前の大義ではなく、顧客に対し、いかに独自性のある言葉で分かりやすく伝えられるかを、考えてほしい。

2-2.聞いた人や口に出した人が、エネルギーを生み出すことができるか

良いミッションは、文字にしたときに、心の底からパッションが湧き上がる効果があることにも注目したい。

・ユニクロの「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」
ミッションに込められた想いがストレートに伝わると、ミッションに賛同したい、「この会社で働いてみたい」という気持ちを喚起させることにもつながる。

2-3.自社の強みに合っているか

良いミッションは、自社の強みに立脚するべきである。

躍進した企業を分析した「針鼠(ハリネズミ)の概念と三つの円」。
狐はいろんな作戦を立てて針鼠を仕留めようとするが、針鼠は自分の強みを最大限に活かして体を丸めて針を出す。自社の本質を見極めて、武器を研ぎ澄まして狐に勝つ。
自社の強みをきちんと言語化できている会社が強いことを示唆している。

針鼠の概念は3つの側面を捉えている
1.情熱を注いでいること、
2.世界一になれること、
3.経済的原動力になること
という3つの円が重なる中心の領域に集中するという概念。

以下のようにCAN-NEED-WANTで捉えると言語化しやすい。
1.自分たちが世界一になれる部分はどこか=自分たちが「できること(CAN)」を考える
2.経済的原動力になるものは何か=社会から「必要とされていること(NEED)」を考える
3.自分たちが情熱を持って取り組めるものは何か=平たく言えば、自分たちが「やりたいこと(WANT)」を指す。

2-4.10年後も使えるか

10年後は、社会や市場を取り巻く状況が様変わりしている。それでも普遍的に変わらない価値があるかどうか。

ユニクロのミッションは、そうした外的要因に左右されることはない。
会社の本質的な存在意義を掲げたミッションは不変だ。ミッションは長期的な指針として考えたい。

自分たちが取り組もうとしている課題や領域は、10年間でどのように変化する可能性があるのか。あわせて、10年後、顧客はどう変わるのか、それにより顧客への価値提案はどう変わるのか、についてもCXOの間で十分に議論した上で、長期的な指針になるミッションを考えたい。

2-5.顧客は誰か明確にできているか

顧客に対する価値提案が明確であることが、優れたミッションを生み出すための重要な前提条件になる。

自分自身の事業を「誰の」「何を(どんな課題を)」「どのように解決する」というシンプルな一言で表現できるだろうか?
特に重要なのが「誰」の視点である。
優れたプロダクトやユーザーエクスペリエンス(UX)を提供するには、自分がターゲットにしているユーザーの視点が非常に重要になる。
もし、経営陣やメンバーの間で「誰」(=ターゲットユーザー)に齟齬があれば優れたプロダクトを生み出すのは難しいだろう。

スタートアップ経営者によく伝えるのが、「自分たちのプロダクトを通して顧客がどのように幸せになったのか?どう幸せになってほしいのか?について明確にしよう」ということだ。

これは「誰の(WHO)、何を(WHAT)、どのように(HOW)」を明確にすることにもつながるが、
自分たちがターゲットにする顧客は誰で、自分たちの商品やサービスを使うことでどのように成功したのか(感動したのか)を改めて、自らに問うていただきたい。

3ビジョンとは自らの意思を投影した未来像

ビジョンとは、自らの意思を投影した未来像のこと

自分たちが心の底から達成したい願いを意味する。長期的な視点で「社会で実現したいこと、社会に貢献できること」などの自分たちの存在意義を掲げるのがミッション。

ミッションの強力な実現に向け、なるべく具体的に実現したい未来像になるように落とし込み、磨き上げていくのがビジョン。

ビジョンを明確にすると、メンバー全員がどこに向かうかという社内の共有目標がはっきりと定まる。結果として、迷いが減り意思決定のスピードが速くなり、ビジョンからの距離を逆算する視点を持つと、意思決定の質も高くなる。

ビジョンを描くときに、ビジョンが達成した未来の「世界の情景」を具体的に表現するのも、非常に有効な手段だ。言語化だけでなく、ビジュアル化することで、メンバー同士のイメージの齟齬が減るからだ。

アマゾン:「我々のビジョンは世界で最も顧客中心の会社になること

ジェフ・ベゾスは何度もカスタマー・セントリック(顧客中心)という言葉を用いていた。
1994年の創業で規模は小さかったうちから、「顧客中心」というビジョンは明確だった。その後の20年で、アマゾンは時価総額100兆円を超える企業にまで成長するが、まさにその原動力になったのが、このビジョンだ。

3-1 SDGsをビジョンだけではなくオペレーションレベルで体現

今の時代はSDGsの要素を吟味して、ビジョンに取り込むことも有効だ。

SDGs は17のゴール・169のターゲットから成っている。
地球上の「誰一人取り残さない」ことを宣言している。
SDGsで描かれている世界観へのシフトは、5~10年単位というスパンのトレンドの変化というレベルではなく、50~100年単位での社会システム全体の変化である。

SDGsが実現されるのは少し先の未来になるが、その未来を思い描き理想の未来を決めそこから逆算して、今必要なことは何かを考えてみると、ビジョンの鮮明さが増すかもしれない。

3-2.良いビジョンの5つの基準

良いビジョンの基準は、以下の5つある。

  1. ワクワク感
    自分自身がワクワクし、そのビジョンのことを考えるだけで毎日仕事がしたくなってしまうような未来像
  2. 巻き込む力
    優れたビジョンとは人や組織の固有のものでありながら、多くの人に「私の夢でもある」と思わせる力を持っている
  3. インサイトフル
    優れたビジョンとは自分が独自で持っている視座やインサイト(本音)がベースになっている
  4. 世界観がクリア
    ビジョンを達成した世界の情景がありありと想像できる
  5. 未来志向/PMF志向
    今の世界に最適化するのではなく、少し先の未来に対して最適化していくというスタンス

4バリューとは、戦略や戦術を実行するにあたっての行動規範

MVVの最後のバリューとは、組織の取り組みにおいて優先すべき価値基準を指す

経営者の想いを言語化したミッションがベースにあり、それをもとにした数年先までの未来像を描くビジョンがある。

一方でバリューは、現在の状態からあるべき姿のギャップを埋めていくための戦略や戦術を実行するに当たって、メンバー一人ひとりが日々の業務や顧客との向き合い方の行動規範を策定したものになる。
組織が大きくなってきたら、経営メンバーやCXOはいちいち、各現場の意思決定に関わることはできない。そこで威力を発揮するのが、バリューである。

バリューは実務上使わなければ意味がないので3つぐらいに絞り、簡潔にまとめるのが望ましい(多すぎると覚えられず、日々の行動に反映する意識を持つのが難しくなる)。

事例バリュー:メルカリ / 3つのバリュー
1.Go Bold(大胆にやろう)
世の中にインパクトを与えるイノベーションを生み出すため、全員が大胆にチャレンジし、数多くの失敗から学び、実践します。

2.All for One(全ては成功のために)
一人では達成できない大きなミッションを、チームの力を合わせ、全員が最大のパフォーマンスを発揮することで実現します。

3.Be a Pro(プロフェッショナルであれ)
メンバー全員がその道のプロフェッショナルとしてオーナーシップを持ち、日々の学びを怠らず、成果や実績にコミットします。

事例バリュー:グーグル/10の行動指針
1.ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる
2.一つのことをとことん極めてうまくやるのが一番
3.遅いより速いほうがいい
4.ウェブ上の民主主義は機能する
5.情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない
6.悪事を働かなくてもお金は稼げる
7.世の中にはまだまだ情報があふれている
8.情報のニーズは全ての国境を超える
9.スーツがなくても真剣に仕事はできる
10.「すばらしい」では足りない

Posted by startup103