★1 MVV「起業の科学」とは

2021年5月2日

スタートアップ起業家として最も重要な通過点は、「PMF」プロダクト・マーケット・フィット(製品市場適合状態度)を達成するためのプロセスを体系化すること。

MVVは「起業家」から「事業家」へ進化するために必要な起業の科学

国内のスタートアップ(新しいビジネスで急成長し市場開拓期にある企業)の資金調達は、ここ10年間を比較すると、実に6倍以上に増えている。
このことでスタートアップを日指す人はかつてない勢いで急増していることがうかがえる。

資金調達ができるスタートアップが増えたー方、IPO(株式公開)するまでに成長できる日本の企業はほんの一握りだ。
日本には評価額が1千億円以上あるユニコーン企業(未上場企業)は5社程度、中国では50社以上、米国では100社以上も存在する。

2000年代に勃興したユニコーン企業のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)は、現在では4社合わせて300兆円に迫る時価総額となる。
GAFAがなければ、スマホもなく、検索エンジンがもない。人々は簡単につながることができず、簡単に買い物することもできないし、動画を観ることもできない世界となり、それがどれほど不便かを想像にかたくない。
このように、ユニコーン企業というのは、ただ単なる「時価総額が高い」未上場のスタートアップ企業ではなく、「産業を生み出し、明日の世界を創造する担い手」という可能性を秘めている。

なぜ、日本ではユニコーン企業が生まれづらいのか

この10年間の日本では、0から1を作る「起業家」は増えたが、1を100にする「事業家」(事業を成長軌道に乗せ大きくする)が圧倒的に少ない。
米国では一度売却や上場を果たした起業家が、シリアルアントレプレナー(連続して何度も新しい事業を立ち上げる起業家)として再度起業するケースが多い。
彼らは、起業してから拡大して事業売却するまでの「攻略法」を持って事業をしているかのようだ。
日本には会社を売却して再びタートアップを始めるシリアルアントレプレナーは、徐々に増えてきたが、まだその数は圧倒的に少ない。

「起業家」が「事業家」になるには、自らを進化させる必要がある

スタートアップ起業家として最も重要な通過点は、「PMF」プロダクト・マーケット・フィット(製品市場適合状態)を達成するためのプロセスを体系化することだ。
経営ノウハウを学ぶための知識体系に「MBA」や「中小企業診断士」などがあるが、これらはスタートアップ型事業にとっては少々内容が古い。

MVV(Mission,Vision,Value)という経営ノウハウは、ミッション「使命」、ビジョン「理念」、バリュー「行動指針」の略語である。
MVVという概念を生み出したのは、「マネジメントの父」「現代経営学の父」などといわれる、ピーター・ドラッカーだ。
その定義は「組織は、独自のミッションの達成のために、ビジョンを実現する必要性があり、また、ビジョン実現のための、より具体的な価値基準としてバリューが定められている」というものだ。
現在ではMVVを理解することが、スタートアップ起業家にとって最も重要な経営ノウハウといえる。

事業家(CXO)に必要な俯瞰力・大局観・ストーリー設計力・横断的知識

スタートアップの成功は初期の経営陣が全ての鍵を握っており、その経営陣が起業家から事業家(CXO)に進化できるかによる。
CXOのCはChief(リーダー)、OはOfficer(役員)を表し、Xは専門性に応じた(職能)を指す。

代表的なCXO
・CEO (Chief Executive Officer :最高経営責任者)
・COO (Chief Operating Officer :最高執行責任者)
・CFO (Chief Financial Officer :最高財務責任者)
・CTO (Chief Technical Officer :最高技術責任者)

外部や内部の環境が激しく変わる「スタートアップCXO」になる人材は、この職能の「専門性」だけでは不十分だ。
各機能に限定的な「部分最適化」された意思決定やディレクションしかできないようでは、正しいCXOとはいえない。

正しい「スタートアップCXO」は部署をまたいで俯瞰し、大局的に事業を把握し、必要なリソースを配分し、かつディレクションできる能力だ。
さらに各要素を理解し、それぞれを有機的に結合し、事業の唯一無二のストーリーを描けることが理想だ。
そして、俯瞰力、大局観、ストーリー設計力に加えて、経営に関する重要な要因を理解し、アクションに落とし込むことができる「横断的知識」も重要。
スタートアップを成長させるCXOには、この「俯瞰力」「大局観」「ストーリー設計力」「横断的知識」の4つを持つことが必要不可欠な能力となる。

0~1の起業家に必要なのは「戦略的泥臭さ」

スタートアップの成否を分けるのは、PMF(製品市場適合状態)を達成できるかできないかで、どんなに優れた製品やサービスを生み出しても、市場に受け入れられなければ企業の成長はない。

PMFを目指す起業家に必要な資質を一言で表現すると、「戦略的泥臭さ」だ。
それは、市場を選択し、PMFできるビジネスモデルを選択し、ソリューションを絞り込んで展開するという高度に「戦略的泥臭さ」だ。
市場に対し「何をやるか」と同時に「何をやらないか」という、顧客のもとに自ら出向き、何が本当に欲しいものかを徹底的にヒアリングし、セールスすることだ。
さらに、セールスだけではなく、価値を提供するために、自ら製品やサービスを顧客に届けることもある。
この戦略性と泥臭さを両方持ち合わせた「戦略的泥臭さ」が、PMFに不可欠な起業家の態度なのだ。

事業の成長につれ、組織には様々な問題が発生する

PMF(製品市場適合状態)を達成するまでに関わるステークホルダーは、顧客、経営メンバー、投資家と範囲が限定されていものです。
この時期は業務内容を明文化したり方針を明確にしなくても、少数の経営陣とメンバーだけでどうにか仕事は回せる。
なぜなら、経営チームの時間やスキルこそが最大リソースなので、寝る間も惜しんで働き、ひたすらPMFを目指すという活動が支配的になるからだ。
そもそもスタートアップのリソース(ヒト・モノ・カネ)は限られているので、それをどのように配分して活用するのかという点にはあまり必要性を生じない。

時を経て、PMFを達成して会社が大きくなるにつれ、組織メンバーも増えてくる。
この時期になると、組織のルール不足やマネジメント不足など様々な問題が発生して、やるべきことが次から次と出てくる。その原因は、起業家が事業家(CXO)に進化できていないことによる。
事業において起業家自身が最大のボトルネックになってきているからで、PMF達成のタイミングで自らを自己分析して事業家(CXO)に進化する必要がある。

PMF(製品市場適合状態)後は、ステークホルダーが一気に増え、カバーすることや意思決定がとても多くなるし、「なぜ、その意思決定をしたのか?」と説明責任を果たす必要もある。
一人のCXOだけで、経営に関するあらゆる領域の専門家になることは不可能に近い。
しかし、ユニコーンを目指すスタートアップCXOならば、専門家と対話ができるまでに自己をレベルアップする必要がある。さらに、専門家にディレクションできるレベルにまで上げなくてはならない。

経営者はリソースフルであるべき

経営者は事業に関するあらゆる側面に対して、熟達が求められる。
現時点で熟達できていなくても、経営者自身は常に自己研鑽し「経営者として常にレベルアップしていく」という姿勢が重要になる。

バランススコアカードは、戦略経営のためのマネジメントシステムで、財務数値だけではなく、経営状況や経営品質から経営を評価し、バランスのとれた業績評価を行うための手法である。
財務の視点、顧客の視点、内部プロセスの視点、学習と成長の視点で成り立っており、事業を“バランス良く"マネジメントするためのフレームワークである。

「起業家」が「事業家」に進化するための課題

1.PMF後にミッション・ビジョン・バリューをどう磨いていくか?
2.PMF後の事業をスケールさせる戦略やロードマップは、どのように立てるか?
3.成長に寄与する人材を、どう採用し、定着させるか?
4.全体戦略を、個別の戦術に落とし込み、戦術実行の行動マネジメントをどうするか?
5.顧客獲得のプロセスをどう最適化するのか?
6.顧客獲得後、継続させるためのカスタマーサクセスの考え方は?
7.ユーザーエクスペリエンス(ユーザー体験)ベースの製品開発をどう実装するのか?
8.ディフェンシビリティ・アセット(持続的競合優位性資産)の蓄積をいかに考えるか?
9.上場するまでのファイナンスについて、そのエクイティストーリーをどう作るのか?
10.それぞれの資金調達のフェーズで、どうやって有利に投資家と交渉を進めていくのか?
11.人員増加に伴いオペレーションの属人化/陳腐化、ボトルネック発生にどう対応するか?
12.どのような事業ポートフォリオを組めば、全体最適が図れるか?
13.バリューチェーンの上下、横において、市場シェアを取りあう競合企業を買収/出資/業務提携し、さらなる成長軌道を描けないか?

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Posted by startup103